美味しさの秘密は「3つの太陽」。400年の歴史がある湯浅町のみかん作り
和歌山県湯浅町。400年の伝統があるみかんの里ですが、だんだん畑のほとんどは「みかんブーム」だった昭和35~41年(1960~66年)に開墾されたそうです。
湯浅町のみかん農家が「3つの太陽」と呼ぶ「陽射し」と「ミネラル分をたくさん含んだ海風」、「海面と石畳に反射する日光」。この3つの恵みに加え、みかん作りに適した地層(秩父古生層)と、土の水分量・適切な温度を保つ「ただんだん畑&石垣」の優れた機能が、みかんの生育を促進。美味しさが評判を呼び、生産も盛んになりました。
今ではみかん生産量で日本一※の和歌山県。湯浅町が属する有田地方は「有田みかん」で知られ、なかでも湯浅町の田村という地域で生産される「有田みかん」は『田村みかん』というトップブランドに成長。今日はそんな田村のみかん農家「善兵衛」さんにお話を伺います。
※農林水産省「農林水産統計」(平成28年)みかんの果樹面積、収穫量及び出荷量
湯浅町のみかん農家が「3つの太陽」と呼ぶ「陽射し」と「ミネラル分をたくさん含んだ海風」、「海面と石畳に反射する日光」。この3つの恵みに加え、みかん作りに適した地層(秩父古生層)と、土の水分量・適切な温度を保つ「ただんだん畑&石垣」の優れた機能が、みかんの生育を促進。美味しさが評判を呼び、生産も盛んになりました。
今ではみかん生産量で日本一※の和歌山県。湯浅町が属する有田地方は「有田みかん」で知られ、なかでも湯浅町の田村という地域で生産される「有田みかん」は『田村みかん』というトップブランドに成長。今日はそんな田村のみかん農家「善兵衛」さんにお話を伺います。
※農林水産省「農林水産統計」(平成28年)みかんの果樹面積、収穫量及び出荷量
田村のみかん農家「善兵衛」の農園で、摘みたての三宝柑を頬張る
山の斜面を耕した「だんだん畑」。湯浅町のみかん畑の特徴。
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享和3年(1803年)、初代・井上善兵衛が和歌山県湯浅町の田村でみかん作りを始める。当初80アールだった農園は250アール(阪神甲子園球場のグラウンド2つ分)に拡大。200年以上も続く伝統の技術で「紅みかん」「温州みかん」「越冬紅」など8種類以上の果物を生産する。
現園主・井上信太郎さんが7代目。
若者が集うコミュニティハウス「紀家わくわく」も運営する。
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ふだん「善兵衛」で農作業体験が出来るのは、農業に関心がある学生・若者のインターンだけ。
今日は特別に農園で摘果(てきか)作業を体験させてもえるということで、うきうきしながら山を登ります。
今日は特別に農園で摘果(てきか)作業を体験させてもえるということで、うきうきしながら山を登ります。
右 紀州柑橘「善兵衛」7代目代表・井上信太郎さん
今日は「善兵衛」の7代目・井上信太郎さんが案内してくれます。
井上さん! とっても広い畑ですね。
「ありがとうございます。でも、ここは農園の一部なんです。農地面積を合計すると甲子園のグラウンド2つ分です」
甲子園のグラウンド2つ分?!
「移動が大変なんですけど(笑)メリットもあるんですよ」
どんなメリットが?
「ひとつは自然災害のリスクが分散される点ですね。畑によって北向き、南向きなど向きが違うので、場所によっては被害を受けずに済むんです。去年の台風※でも、全面的な被害は免れました」
※2018年9月、日本列島に上陸した21号や24号などの大型台風。和歌山県も被害は甚大で、完全復旧には数年かかる見込み。「善兵衛」も被災。とくに暴風に乗った海水による「塩害」の損害は深刻で、約100本の木が枯れたという。
「では、体験をはじめましょう!」と井上さん。
摘果させてもらう果実、なんという品種かわかりますか?
井上さん! とっても広い畑ですね。
「ありがとうございます。でも、ここは農園の一部なんです。農地面積を合計すると甲子園のグラウンド2つ分です」
甲子園のグラウンド2つ分?!
「移動が大変なんですけど(笑)メリットもあるんですよ」
どんなメリットが?
「ひとつは自然災害のリスクが分散される点ですね。畑によって北向き、南向きなど向きが違うので、場所によっては被害を受けずに済むんです。去年の台風※でも、全面的な被害は免れました」
※2018年9月、日本列島に上陸した21号や24号などの大型台風。和歌山県も被害は甚大で、完全復旧には数年かかる見込み。「善兵衛」も被災。とくに暴風に乗った海水による「塩害」の損害は深刻で、約100本の木が枯れたという。
「では、体験をはじめましょう!」と井上さん。
摘果させてもらう果実、なんという品種かわかりますか?
答えは「三宝柑」(さんぽうかん)。
江戸時代、和歌山城下の邸内に突然生まれた変り種です。紀州藩主・徳川治宝(とくがわ はるとみ)に献上すると喜ばれ、城外不出の果物になったとか。
禁が解かれたのは明治時代。以降、県内で栽培が始まり、いまではこの三宝柑、全国シェアの約90%が和歌山産。さらに、その2/3が湯浅町で作られているそうです。
出荷の最盛期は 3~4 月。主に生果として食され、デザートの原料や料理の器にも使われます。お風呂に浮かべると気品豊かな香りが楽しめると、入浴剤としても人気。
江戸時代、和歌山城下の邸内に突然生まれた変り種です。紀州藩主・徳川治宝(とくがわ はるとみ)に献上すると喜ばれ、城外不出の果物になったとか。
禁が解かれたのは明治時代。以降、県内で栽培が始まり、いまではこの三宝柑、全国シェアの約90%が和歌山産。さらに、その2/3が湯浅町で作られているそうです。
出荷の最盛期は 3~4 月。主に生果として食され、デザートの原料や料理の器にも使われます。お風呂に浮かべると気品豊かな香りが楽しめると、入浴剤としても人気。
では、摘果にチャレンジ!
む、む、難しい……ハサミを入れる箇所に見当をつけ、腕を伸ばします。
山の斜面で体が傾くし、慣れない体勢と不器用なハサミの持ち方がたたるし、腕と指がぶるぶる震えます……
井上さん、お手本、見せてください。
山の斜面で体が傾くし、慣れない体勢と不器用なハサミの持ち方がたたるし、腕と指がぶるぶる震えます……
井上さん、お手本、見せてください。
これぞプロ!
鮮やかな手さばきで、みるみるうちに三宝柑が摘果されます。
鮮やかな手さばきで、みるみるうちに三宝柑が摘果されます。
だんだん慣れてきました。
枝を少し残しておくのが摘果のコツだそうです。
枝を少し残しておくのが摘果のコツだそうです。
パチン ――
枝を切る甲高い音が山の斜面に響きます。
そういえば……井上さん?
今日は「三宝柑」を摘果させてもらってますが、ほかにも「紅みかん」や「温州みかん」、「清見オレンジ」など、「善兵衛」さんは何種類もの柑橘を作られてますよね。
こういった複数品種の生産には利点があるんでしょうか?
枝を切る甲高い音が山の斜面に響きます。
そういえば……井上さん?
今日は「三宝柑」を摘果させてもらってますが、ほかにも「紅みかん」や「温州みかん」、「清見オレンジ」など、「善兵衛」さんは何種類もの柑橘を作られてますよね。
こういった複数品種の生産には利点があるんでしょうか?
「ありますよ。ひとつは収入面ですね。果実ごとに収穫の時期が違うので、年間を通して出荷できます。ひとつの品種だけを生産するよりも収入が安定します。一番のメリットは「善兵衛」のファンでいてくださるお客様に、うちの果物を1年通して楽しんでもらえることですね」
三宝柑、いっぱい採れました。
採れるって、うれしいんですね。しかも、楽しい。
いつのまにか摘果に夢中……かじかんだ手や冷えた鼻のこと、忘れます。
「食べてみませんか?」と井上さん。
採れるって、うれしいんですね。しかも、楽しい。
いつのまにか摘果に夢中……かじかんだ手や冷えた鼻のこと、忘れます。
「食べてみませんか?」と井上さん。
うれしいお誘いです!
ぎゅっと詰まった三宝柑の果実
ひと房ひと房が瑞々しく、ひと皮むくと美味しいそうな香りがふわっと漂います。
剥いた三宝柑に齧りつくと口のなかに……じゅわぁ……あま酸っぱさが広がるんです。喉越しも、とっても爽やかです。
だんだん畑から見下ろす湯浅町の景観、それと、大洋のひろがり。
「善兵衛」さんの三宝柑を頂きながら、景色も独り占めできるなんて最高の贅沢。
だんだん畑から見下ろす湯浅町の景観、それと、大洋のひろがり。
「善兵衛」さんの三宝柑を頂きながら、景色も独り占めできるなんて最高の贅沢。
さいごに記念写真をパチリ。
たった2分で完売? 幻の「越冬紅」(えっとうべに)とご対面
つづいて、検品や出荷作業をする倉庫で井上さんにお話を伺います。
井上さん、柑橘の生産だけでなく、被災した農家さんをクラウドファンディングで支えられたり、若者が集まるコミュニティハウスを運営されたり、いろいろな活動をされてますよね。どのような想いがありますか?
「他県であろうと農家さんは仲間だと思ってます。力になりたいです。コミュニティハウスに関しては、都市と農村の交流の場づくりでしょうか。湯浅町にはみかんだけじゃなく、醤油や味噌、歴史のある町並みとか、いろんな魅力があります。みかんを通じて湯浅町を知ってもらい、この町を好きになってくれる人が増えたいいなと思ってます」
「善兵衛」さんは湯浅町の窓口なんですね。
「窓口、入り口……きっかけ? なんでもいいんですけど(笑)」
「他県であろうと農家さんは仲間だと思ってます。力になりたいです。コミュニティハウスに関しては、都市と農村の交流の場づくりでしょうか。湯浅町にはみかんだけじゃなく、醤油や味噌、歴史のある町並みとか、いろんな魅力があります。みかんを通じて湯浅町を知ってもらい、この町を好きになってくれる人が増えたいいなと思ってます」
「善兵衛」さんは湯浅町の窓口なんですね。
「窓口、入り口……きっかけ? なんでもいいんですけど(笑)」
「善兵衛」の箱は深緑色。開封したとき、みかんの色がパッと映える。ロゴマークの「果樹」は井上さん曰く、「理想のみかんの木」。
でも、井上さん? 町を紹介したいという希望はあっても、何をどうやればいいか……具体的に思い浮かばなくて、行動に移せない人も少なくないと思うんです。井上さんはどうしてアイデアを思いつき、実現させられるんですか?
「大学を卒業してから2年間、和歌山県の田辺市にある『秋津野ガルデン』という施設でグリーンツーリズムの研修を受けたんです。お客さまに地元で暮らす方々の料理を提供したり、お菓子作りを体験してもらったり。みかん作りの歴史も紹介していました。こういったコミュニケーションを通じて、たくさんの人とみかんについてお話しできました。いまの活動には、こういった経験が活きてる気がします」
研修の経験がアイデアの種なんですね。
「ひとりじゃ実現出来ないですけどね! 仲間や学生が助けてくれます」
「大学を卒業してから2年間、和歌山県の田辺市にある『秋津野ガルデン』という施設でグリーンツーリズムの研修を受けたんです。お客さまに地元で暮らす方々の料理を提供したり、お菓子作りを体験してもらったり。みかん作りの歴史も紹介していました。こういったコミュニケーションを通じて、たくさんの人とみかんについてお話しできました。いまの活動には、こういった経験が活きてる気がします」
研修の経験がアイデアの種なんですね。
「ひとりじゃ実現出来ないですけどね! 仲間や学生が助けてくれます」
「善兵衛」にはジュースブランドも。写真は「温州みかんジュース」2本入り/2.400円(内税)。
そういえば、「善兵衛」さんには、すごいみかんがあると聞きました。
「アレですね! サンプルがひと箱、残ってます」
「アレですね! サンプルがひと箱、残ってます」
こ、これが……
ネットショップで売り出した直後、たった2分で完売したという……
幻の……
……幻のみかん、「越冬紅」!
みかん一個、おいくらですか?
「400円です」と井上さん。
「食べてみます?」
ぜひ!
みかん一個、おいくらですか?
「400円です」と井上さん。
「食べてみます?」
ぜひ!
手に取ると、子どもの手のひらに置くなら、ちょどいいくらい? 思ったよりも小ぶりです。
でも……
でも……
噛む度に、房をつくる粒、ひと粒ひと粒の食感があります。
甘みも濃厚……いや、特濃です。
「この「越冬紅」。品種としては「紅みかん」ですが、採る時期が違うんです。「紅みかん」は秋。「越冬紅」の収穫時期は年が明けてからです。採れるものを、あえて採らない。これを「木熟」(きじゅく)と言います」と井上さん。
木熟。初めて聞きました。
「「木熟」は木にストレスをかけるので、沢山は作れません。鳥獣害や寒さによるダメージといったリスクも高まります。でも、年をまたぐと、みかんの味が濃厚になるんですよ」
それって、熟成ですか?
「はい。酸味と糖度もちょうどいいバランスに変わります」
越冬紅の美味しさの秘訣……企業秘密だったのでは……(笑)
「大丈夫です(笑)お客さまには生産過程や品種の特徴を知ってもらいたいですし、ホームページにも販売している品種ごとに詳細を載せてます」
すこしお話を伺っただけでも、「越冬紅」の貴重さや有難さがますます感じられて……そういえば、井上さん? みかんって寝かせると美味しくなる食べ物なんですか?
「摘果直後が食べ頃のみかんもあるし、品種によります。みかんは風通しのいいところで保存してくださいね。冷蔵庫に入れると味は落ちてしまいますが、日持ちしますよ」
甘みも濃厚……いや、特濃です。
「この「越冬紅」。品種としては「紅みかん」ですが、採る時期が違うんです。「紅みかん」は秋。「越冬紅」の収穫時期は年が明けてからです。採れるものを、あえて採らない。これを「木熟」(きじゅく)と言います」と井上さん。
木熟。初めて聞きました。
「「木熟」は木にストレスをかけるので、沢山は作れません。鳥獣害や寒さによるダメージといったリスクも高まります。でも、年をまたぐと、みかんの味が濃厚になるんですよ」
それって、熟成ですか?
「はい。酸味と糖度もちょうどいいバランスに変わります」
越冬紅の美味しさの秘訣……企業秘密だったのでは……(笑)
「大丈夫です(笑)お客さまには生産過程や品種の特徴を知ってもらいたいですし、ホームページにも販売している品種ごとに詳細を載せてます」
すこしお話を伺っただけでも、「越冬紅」の貴重さや有難さがますます感じられて……そういえば、井上さん? みかんって寝かせると美味しくなる食べ物なんですか?
「摘果直後が食べ頃のみかんもあるし、品種によります。みかんは風通しのいいところで保存してくださいね。冷蔵庫に入れると味は落ちてしまいますが、日持ちしますよ」
有田みかんのトップブランド「田村みかん」を味わう
紀伊半島西岸部の湿潤な気候に育ち、「陽射し」と「海風」、「反射光」という「3つの太陽」を浴びて美味しくなる田村のみかん。井上さんによると「田村のみかん農家は、みかん一個づつを手作業で、何度も検品する」そうです。風土に恵まれ、一個、一個に愛情が注がれた「田村みかん」。全国の百貨店や通販サイトで購入できます。